レベルⅠ

児童・思春期精神科看護の経験がおおむね1年目の人を対象としています。レベルⅠでは、指導や教育のもとで、子どもとの関係性を発展させ、計画的に看護を実施することができることが目標となります。

各領域の到達目標は、以下の通りです。

アセスメント 枠組みに従って必要な情報を子どもとその家族への観察と聞き取りから得ることができ、子どもの日常生活上の問題(看護介入を必要とする子どもの課題)を特定することができる。
援助の
基盤づくり
子どもへの生活支援や個別の関わりを通して楽しい時間を共有し、関係性を発展させることができる。
援助行動 子どもの日常生活上の問題(看護介入を必要とする子どもの課題)に対して、目標を設定し、計画的な援助を行うことができる。治療や看護に対する子どもと家族の思いを聞くことができる。
協働 病棟スタッフの動きに留意しながら、子どもに対して集団および個別の関わりを実施することができる。
専門能力の
開発
精神疾患の症状と対応についての基礎的な知識、および、身体ケア、コミュニケーション技術などの看護技術の基本を臨床現場での実践を通して修得する。

レベルⅠには、新人看護師、他の病棟から異動してきた看護師など様々な看護経験の人が含まれます。まずは、ここに挙げた到達目標をめざして、児童・思春期精神科看護の特徴を知り、慣れることから始めましょう。成人の精神科や小児科での看護経験がある人は、すぐにこれらの目標を達成できるかもしれません。新人看護師や長期間のブランクのある人は、時間がかかるかもしれません。すでに、主任などの役職を持っている人は、子どもと家族に対する看護実践に加えて、管理業務も覚えていかねばなりません。新しく児童・思春期精神科病棟に着任した看護師を指導する立場にある人が、教育目的で本書を用いる場合も、看護師それぞれの経験や立場を考慮する必要があります。焦る必要はありませんので、行動指標を確認しながら、自分のペースで看護実践能力を向上させていきましょう。また、児童・思春期精神科病棟での看護における基本的な事項を自ら学び、看護を実践する時の指針である「児童・思春期精神科病棟の看護基本のQ&A」も参考にして下さい。

1.アセスメント

病棟で使用している情報収集やアセスメントのフォーマットを使って、子どもの全体像を把握しましょう。自殺や暴力のリスクも、まず病棟で使用しているスコアシートの項目を正しく評価できるようになることを目指します。そして、子どもの視点で子どもの生活を理解するように努力しましょう。主担当として支援計画の立案を行う場合は、担当した子どもの疾患が日常生活に与える影響を考え、子どもが必要としていることを考えます。

到達目標 枠組みに従って必要な情報を子どもとその家族への観察と聞き取りから得ることができ、子どもの日常生活上の問題(看護介入を必要とする子どもの課題)を特定することができる。
行動指標
  • 病棟で使用しているアセスメントシートを用いて基本的な情報収集を行う
  • 情報収集のため子どもと家族の両方から話を聞く
  • 他職種や他の看護師からの情報を積極的に得る
  • 外出・外泊帰棟時の子どもの言動を観察する
  • 面会・外出・外泊時の様子を確認する
  • 一人で過ごしている時と集団の中にいる時の両方の子どもの様子を観察する
  • 自分が勤務していなかったときの子どもの様子を確認する
  • 行動制限を行っている子どもの状態を指示に基づいて観察する
  • 身体の不調をバイタルサインなどで観察する
  • 子どものできないこと(限界)と得意なこと(強み)を知る
  • 疾患の症状による日常生活への影響を理解する
  • 子どもと大人に対する子どもの関わり方の特徴を理解する
  • 疾患の症状として子どもに現れている言動を理解する
  • 家庭での食生活、金銭管理等、入院前の日常生活を把握する
  • 子どもにとっての正の強化子と負の強化子を理解する
  • 子どもの普段とは異なる状態(興奮・混乱など)を理解する
  • 隔離拘束を初めて体験した子どもの衝撃を考える
  • 病棟で使用しているスコアシートを用いて子どもと家族の状況の客観的評価を行う(転倒防止、自殺リスク、暴力のリスク評価など)

 

2.援助の基盤づくり

子どもとの関係づくりは、大人とは異なります。子どもに関心を寄せ、子どもを観察し、子どもの世界をイメージしてみましょう。子どもたちの作り出す空間に、ためらわず飛び込んでみて、同じことをやってみましょう。遊びは、子どもたちから教えてもらえばよいのです。できるだけ多くの時間を子どもたちと過ごすことが大切です。自分が子どもだった頃の感覚を懐かしく思い出すかもしれません。

到達目標 子どもへの生活支援や個別の関わりを通して楽しい時間を共有し、関係性を発展させることができる。
行動指標
  • 守秘義務を守り子どもと家族が安心して自由に話せるように配慮する
  • 子どもとの楽しい時間を作って共有する
  • 子どもの興味関心を共有する
  • 子どもに遊びを教えてもらう
  • 子どもの興味・関心に応じた関わりを行う
  • 子どもの生活の支援をする
  • 一対一の関わりの時間をもつ
  • 子どもとの関わりを多く持ち時間をかけて関係性を築く
  • 一人でいる時に声をかける
  • 雑談などを通して関わる
  • ただ子どもの側にいる
  • 子どもの味方になる
  • 子どもと関わる時間の見通しを立てて約束を守る
  • 担当看護師を家族に認識してもらう

 

3.援助行動

子どもと課題を共有し、一緒に目標を決めて取り組みます。いつも上手くいくとは限りません。イライラや暴力時の対応を事前に決めておき、上手く行った時は一緒に喜びましょう。子どもの行動を良い方向に導くために、どのように看護師が対応すればよいかを知るためには、行動療法の基本を勉強すると役立ちます。また、子どもに特徴的な感染症や子どもならではの怪我に注意しましょう。そして、とにかく子どもとたくさん遊びましょう。

到達目標 子どもの日常生活上の問題(看護介入を必要とする子どもの課題)に対して、目標を設定し、計画的な援助を行うことができる。治療や看護に対する子どもと家族の思いを聞くことができる。
行動指標
  • 看護上の課題と看護目標を明確にする
  • 子どもが理解できるように工夫して課題を共有する
  • 子どもと一緒に課題への対応や問題の解決方法を考える
  • アクションプランを子どもと共有する
  • 子どもの行動変容を促すために行動療法に基づく看護介入を、サポートを得ながら実施する
  • 子どもに適した分かりやすい方法で約束事や話し合った内容を示す
  • 問題行動が発生した時の対応を事前に明確に決めておく
  • 課題に対する振り返りを子どもと一緒に行う
  • 暴力・暴言に対しては毅然とした態度で対処する
  • 興奮状態にある時は指示に従い適切な方法でクールダウンを行う
  • 問題行動が発生した時に指導する
  • イライラや暴力の理由を子どもに聞く
  • 安全に隔離・拘束を行う手技を身につけ、他のスタッフとともに実施する
  • 暴力や逸脱行為に対しては厳しく対処しつつも、子どもの人格や気持ちは否定しない
  • 暴力は良くないことを教え暴力を防ぐ
  • 子どもと一緒に遊びを楽しむ
  • ケアの方針や病棟のルールは毅然とした態度で一貫して守る
  • 家族が思いを表出しやすいように工夫する
  • 身体的な不調や外傷に適切に対応できる
  • 子どもの身体管理を指示に従ってできる

 

4.協働

病棟スタッフの動きをよく見て下さい。チームプレイで、子ども集団に上手に対応しています。病棟のチームの一員としての役割を考えましょう。

到達目標 病棟スタッフの動きに留意しながら、子どもに対して集団および個別の関わりを実施することができる。
行動指標
  • 病棟スタッフ全員で子ども集団を受け持つ
  • アセスメント・ケアプラン等の情報を記録に残しチームで共有する
  • 看護師同士で声を掛け合って個別対応の時間をつくる
  • 病棟スタッフで決めた内容を子ども・家族に伝える
  • チームの一員として報告・連絡・相談を適切に行う
  • 院内学級の教員から学校での様子を聞く

5.専門能力の開発

支援計画の立案や評価を主として担当している子どもの心身の発達や疾患、治療法を勉強し、日々の看護実践に活かしましょう。担当している子どもが、熱中している遊び、おもちゃ、キャラクターなどに、関心を持つことは、子どもに関心を寄せることにつながっています。

到達目標 精神疾患の症状と対応についての基礎的な知識、および、身体ケア、コミュニケーション技術などの看護技術の基本を臨床現場での実践を通して修得する。
行動指標
  • 関係性を構築するための共感的なコミュニケーション技術を身につける
  • 担当の子どもの疾患と治療、発達段階を理解する
  • 基本的な身体ケアに関する看護技術を身につける
  • 精神看護・小児看護の基礎的知識を身につける
  • 精神保健福祉法の理念と治療行為における法的位置づけを理解する
  • 児童福祉法、虐待防止法などの関連法規の理念と法に基づく対応を知る
  • 子どもに特徴的な事故を理解し、事故防止のポイントを知る
  • 安全に行動制限を行う手順を理解する
  • 先輩看護師の看護実践を見習う
  • 精神科医から診断・薬物療法について学ぶ
  • 子どもが興味を示している遊びやキャラクターを調べる
  • 仕事とプライベートを切り替えられる
  • 看護実践の中で自分が大切にしていることを考える