レベルⅡ

児童・思春期精神科看護の経験がおおむね2~3年目の人を対象としています。レベルⅡでは、子どもと家族に積極的に関与し、チームに働きかけてニーズに沿った看護を実践できること、自己の学習課題を見つけることができることが目標となります。

各領域の到達目標は、以下の通りです。

アセスメント 関係機関からの付加的な情報収集と看護実践によって、子どもと家族を多方面から詳細かつ正確に評価し、子どもの課題を全体像の中に位置づけるとともに、子どもと家族のニーズから必要な看護介入を見出すことができる。
援助の基盤づくり 子どもと家族の気持ちを共感的に理解して受け止め、子どもの特性に合わせた関わりを行うことで治療的で相互的な関係を構築することができる。また、子どもと家族との関わりで生じた自己の感情を適切に取り扱うことができる。
援助行動 子どもと家族の主体性を引き出し、ともに課題に取り組む。また、子どもと家族の強みに着目し、成長発達を支援する。
協働 多職種チームにおける看護の役割を自覚し、他のスタッフを巻き込みながら、担当の子どもと家族への看護を総括的に担うことができる。
専門能力の開発 子どもの成長発達および精神症状を適切に評価する能力を身に付け、困難事例の看護実践に積極的に取り組むことができる。

レベルⅡでは、支援計画の立案や評価を主として担当した子どもとその家族に対して、チームに働きかけて、主体的に看護を展開できるようになることを目指します。これらの到達目標を達成できれば、児童・思春期精神科看護の領域で、一人前というわけです。目標を達成するため、教科書や参考書に書かれてある内容を実際の事例に結びつけて理解できるよう訓練しましょう。院内での事例検討会や学習会に積極的に参加し、多様な事例を知ることが肝要です。

1.アセスメント

子どもとその家族の包括的なアセスメントを行い、彼らのニーズを満たすために看護師ができることを見つけます。不足している情報があれば、こちらから収集しに行きます。子どもの生活環境を詳しく知る必要がある場合は、家庭訪問をすることも一つの方法です。子どもや家族に直接聞いてみることも大切です。子どもと家族のニーズを見極めるためには、子どもと家族を様々な視点から観察し、いろんな可能性も含めて適切な理解を導き出す必要があります。

到達目標 関係機関からの付加的な情報収集と看護実践によって、子どもと家族を多方面から詳細かつ正確に評価し、子どもの課題を全体像の中に位置づけるとともに、子どもと家族のニーズから必要な看護介入を見出すことができる。
行動指標
  • 他職種や他の看護師からの情報を積極的に活用する
  • 不足している情報を得るために家族や関係者に主体的に問い合わせる
  • 自宅の構造や周辺の様子など子どもの生活環境を観察するために家庭訪問を行う
  • 子どもと向き合い子どもの本音を聞く
  • 子どもに対する親の思いや今後の希望を聞く
  • 看護師の話に対する子どもと家族の理解の程度を確認する
  • 治療やケアに伴う子どもの変化を観察する
  • 子どもと家族員との関わりを観察する
  • 病棟内の子ども集団における力動を観察する
  • 子どもの自分の病気と治療に対する理解を知る
  • 子どもの知的レベルを把握する
  • 抽象的概念に対する子どもの理解度を確認する
  • 子どもが望んでいる生活環境を知る
  • 子どもの心理的な注意サインを知る
  • 子どもの不安な気持ちを知る
  • 様々な場面での子どもの困りごとを把握する
  • 入院生活の負担や恐怖を子どもの目線で理解する
  • 正常発達との比較から子どもの心身の発達段階を理解する
  • 子どもの愛着形成の問題の有無を理解する
  • 親の理解力を把握する
  • 親の精神状態をアセスメントする
  • 家族間の関係性を理解する
  • 治療段階を踏まえて疾患による症状と子どもの変化を理解する
  • 薬物療法の効果を理解する
  • 子どもが他者との関わりから受ける影響を知る
  • 暴力行為・逸脱行為のきっかけを把握する
  • 子どもの良い行動変容を導くきっかけを把握する
  • 情報を統合して子どもの全体像を構築する
  • 子どもから受ける治療者側の影響を理解する
  • 看護が対応できることかどうかを判断する
  • 医師の介入が必要かどうかを判断する
  • 子ども・家族と病棟の状況に応じて看護ケアの優先順位を決める
  • 衝動性のコントロールに対する対処を考える
  • 子どもと家族のニーズを把握し、優先順位をつける
  • クールダウンの開始と終了の判断をする
  • 治療やケアの効果を判断する
  • 子ども集団におけるキーパーソンを特定する
  • 行動拡大を計画する際のリスクアセスメントを行う

2.援助の基盤づくり

子どものつらさを理解し、甘えを受け止め、寄り添うことは、簡単ではありません。子どもや家族に対して、陰性感情を抱くこともあります。しかし、恐れていては、子どもの信頼を得ることはできません。子どもは、看護師が信頼できる存在なのかを試すものです。思い切って、子どもに深く関わってみることをお勧めします。大切なのは、巻き込まれていることに気づくこと、子どもとの距離が近づいていることを意識することです。

到達目標 子どもと家族の気持ちを共感的に理解して受け止め、子どもの特性に合わせた関わりを行うことで治療的で相互的な関係を構築することができる。また、子どもと家族との関わりで生じた自己の感情を適切に取り扱うことができる。
行動指標
  • 子どものつらさを理解する
  • 子どもの甘えを受け止める
  • 子どもの「いま、ここ」の感情に寄り添う
  • 問題行動の背景にある子どもの思いを考えながら接する
  • 子どもが受けとめてくれたと認識できるようにする
  • 子どものポジティブな面に焦点を当てて関係を築く
  • 子どもとの適切な心的距離を理解する
  • 子どもの言動によって自分が心理的に巻き込まれていることに気付く
  • 子どもの発達段階や疾患の特性に応じた有効なコミュニケーションの方法を用いる
  • 看護師が自己開示する(看護師の感情や経験を子どもと分かち合う)
  • 遊びの中で子どもの思いを引き出す
  • 子どもとの関係性の終結をしっかり行い、子どもにとっての次の対人関係のステップにつなげる
  • 子ども集団の中で治療段階に応じた優先順位を設定して関わる
  • 保護者からケア提供への同意を得る
  • 入院当初に家族との関わりを十分にもつ
  • 子どもの病棟での様子を定期的に家族に伝える
  • 家族のしんどさや不安を、時間をかけて聞く
  • 家族の来棟時に話を聞く(必要に応じて面談を行う)
  • 積極的に家族に会って話を聞く
  • 子どもや家族との関わりで生じたネガティブな感情に向き合う

3.援助行動

子どもは、日々成長し発達しています。問題だけに焦点を当てるのではなく、子どもの強みを活かし、好ましい行動を増やすことも大切です。子どものやる気を引き出し、家族・スタッフ・他の子どもにも働きかけて、子どもたちの可能性を伸ばしていきましょう。

到達目標 子どもと家族の主体性を引き出し、ともに課題に取り組む。また、子どもと家族の強みに着目し、成長発達を支援する。
行動指標
  • 子どもと向き合う時間を作り、子どもが話を聞いてもらえたという感覚を持てるようにする
  • 家族・子どもが課題に向き合う必要性に気づくようにする
  • 現在の課題と治療の方針を子どもが理解できるように説明する
  • 子どもの強みを強化し生活に活かす
  • 子どもの拘り行動を緩和させる(小さな拘りの克服、矛先を変えるなど)
  • 疾患の特性に合った支援を提供する
  • どもが好きな遊びをケアに取り入れる
  • 子どもの好ましくない行動に対して注目せず無視する
  • 薬の作用と副作用を伝え飲みやすい工夫を一緒に考える
  • 子どもが落ち着ける環境を提供するために個室を活用する
  • 子どもが自分の状態に合わせて頓服薬を使用できるよう指導する
  • 子どもが成功体験を積めるよう機会を提供し、ポジティブなフィードバックを行う
  • 入退院時に生活の変化にスムーズに対応できるよう支援する
  • 子どもが学校へ行けるよう支援する
  • 物理的・人的に場面を構造化し暴力・問題行動が起こりにくい治療環境をつくる
  • 暴力・問題行動に至る個別のパターンを子どもと共有し、対処方法を一緒に考える
  • 行動療法に基づく看護介入によって暴力・問題行動を漸減させる
  • 行動制限下にある子どもに安全と安心を保障した関わりができる
  • 友達関係における子どもの課題を明らかにし、対処方法を見出す
  • 一人で過ごしている子どもを遊びに巻き込む
  • 同時に話しかけてくる子どもたちの話を順番に聞く
  • 集団の中でキーになる子どもを把握しサポートする
  • 家族にできること、家族がすべきことを具体的に伝える
  • 病棟の規則正しい生活を外泊中も実践するよう子どもと家族に指導する
  • 家族の力に合わせた外泊時の課題を設定する
  • 病棟で頑張っている子どもの様子を家族に伝える
  • 家族のできているところを伝えエンパワメントする
  • 家族が子どもの良いところに気づけるようにする
  • 家族に子どもの疾患や症状を理解してもらう
  • 治療方針、看護の意味、治療効果を家族に理解してもらう
  • 退院後の地域のサポート体制を家族と子どもに説明する
  • 身体的な危機にある子どもに対して心理面に配慮しながら身体管理を行う

4.協働

担当している子どもとその家族の看護を総括的に担うということは、何でも自分ですることではありません。むしろ、多職種チームで課題を共有し、治療が円滑に進むようチーム内の調整を行います。主治医とは十分にコミュニケーションをとり、一緒により良い治療を考えていく良きパートナーとなりたいものです。暴力、離院、身体疾患の悪化などの緊急時には、チームの中で自分の担うべき役割を果たせるよう備えておきましょう。

到達目標 多職種チームにおける看護の役割を自覚し、他のスタッフを巻き込みながら、担当の子どもと家族への看護を総括的に担うことができる。
行動指標
  • 担当の子どもの看護ケアを総括的に担う
  • 一人で抱え込まずに適宜他のスタッフの力を借りる
  • スタッフの世代や価値観によるケアの違いを知る
  • 家族・子どもの関わりから生じた負の感情をチームで表出し共感し合う
  • 多職種それぞれの役割と仕事内容を理解する
  • 多職種チームの一員としてケアの方向性の決定に貢献する
  • 他の職種と共同でケアを実施する
  • 医師と一緒に治療方針や対応を決める
  • 医師と一緒に治療の評価を行う
  • 医師の意思決定がスムーズに実施されるようサポートする
  • 医師の診察内容を家族が十分理解できるよう支援する
  • ケアプラン策定時には子どもと家族にも参加してもらう
  • 暴力発生時に、自分の担うべき役割を理解し、他のスタッフと協働して対応する
  • 院内学級の教員と連携して子どもの登校支援を行う

5.専門能力の開発

自分が支援計画の立案や評価を担当した子どもだけでなく、児童・思春期精神科の主要な疾患や成人するまでの発達過程について幅広い知識を身に付けましょう。心理検査の所見を理解したり、脳波測定時にどのような声かけが必要かを考えたりと応用力を身に付けましょう。子どもと関係性を構築する中で起こった自己の感情を振り返り、自分の看護観を見つめていくことも大切です。自分がどのように親に育てられてきたか、または、自分がどのような子育てを経験したかということも、看護観に影響を与えています。自分が大切にしていることを誰かに話して、聞いてもらうと良いでしょう。

到達目標 子どもの成長発達および精神症状を適切に評価する能力を身に付け、困難事例の看護実践に積極的に取り組むことができる。
行動指標
  • 児童・思春期精神科の主要な疾患の症状と治療を理解する
  • 幼児期から成人するまでの正常発達の過程を細かく理解する
  • 思春期心性を理解する
  • 精神症状のアセスメントを通して問題を明らかにしその問題を表現できる
  • 疾患に合わせた対応方法・治療プログラムを理解する
  • 児童思春期精神科で用いられる主要な検査方法を理解する
  • 発達段階に応じた仲間関係のあり方を理解する
  • 自分の子ども時代の経験を振り返ることで子どもの気持ちを理解する
  • ケースレポートを作成し自分の看護実践を振り返る
  • 困難なケースへの看護を経験する
  • 家族や子どもの多様性を受け入れる
  • 看護師は伴走者であることを理解する
  • 修得すべき知識・技術を明らかにし主体的に学習する
  • 自分の看護観を言語化する