レベルⅢ

レベルⅢ

児童・思春期精神科看護の経験がおおむね3~5年目の人を対象としています。レベルⅢでは、子どもと家族の包括的理解と多職種との協働によって、困難に対処し治療を前進させることができること、自己の学習課題に向けた活動を展開できることが目標となります。

各領域の到達目標は、以下の通りです。

アセスメント 関係機関との密な連携や家族との十分なコミュニケーションによって子どもの養育環境を包括的に理解し、子どもの問題の背景にある課題を特定した上で、今後の成長発達を見据えたケアの方向性を示すことができる。
援助の基盤づくり 治療的関係の中で生じた抵抗を理解した上で、子どもと家族が主体的に行動変容できるように意図的に関わることができる。
援助行動 子どもと家族が自らの課題に対する理解を深め、納得のいく治療を受けられるよう支援するとともに、困難な局面において臨機応変に対応することができる。また、集団を対象とした治療プログラムを主導することができる。
協働 関係機関および他職種の機能と役割を理解し、積極的に働きかけて協働することで、困難に対処し、治療を前進させることができる。
専門能力の開発 エビデンスに基づく看護実践を行うために、広い視野で自己研鑽を行うことができる。また、他の看護師と学びを共有することができる。

レベルⅢでは、児童・思春期精神科病棟に続けて5年程度勤務している人、児童・思春期精神科病棟で3年間勤務した後に他の診療科を経験して、再び戻ってきた人などが含まれます。中堅看護師として教育的な役割も求められてきます。児童・思春期精神科看護においても、このレベルにある看護師は、病棟の看護実践力を牽引する役割が求められています。レベルⅢの看護師がどれだけ力を発揮するかによって、病棟全体の看護実践力が決定づけられるといっても過言ではありません。

したがって、レベルⅢでは、かなり高度な看護実践を到達目標としています。子どもとその家族に一通りの看護を提供できるという以上のことを求めています。それは、困難に立ち向かい、困難を打破する力です。いろいろ試してもうまくいかないケース、ずっと足踏み状態のケース、病棟の中で生じている課題、不測の事態といった困難に積極的に立ち向かい、前進させていくことです。

そのためには、普通のことを普通にやるのではなく、プラスアルファの知識と行動力が必要になってきます。成長発達や精神療法などの理論を踏まえた看護ができ、様々な人を巻き込んで、困難な状況に対処していかなければなりません。

必要な知識・実践力を身に付けるために、積極的に情報を収集して院外の研修会や勉強会に参加しましょう。看護や医学だけでなく、心理、教育、福祉、社会学などの近接領域の世界にも触れてほしいものです。他の病院の実践や新しい知識に触れること、そして、人とつながっていくことで、困難に対処する際の勇気とアイデアは生まれるのです。

 

1.アセスメント

表出された行為やニーズだけでなく、その背景を捉えましょう。本人や家族も意識していない、見えない課題を見つけるのです。また、子どもの将来を考えましょう。成長発達を続ける子どもが、いつどのようになっているかを考えなければ、今何をすべきか見えてきません。容易には見えない部分にこそ、本質が隠れているものです。

到達目標 関係機関との密な連携や家族との十分なコミュニケーションによって子どもの養育環境を包括的に理解し、子どもの問題の背景にある課題を特定した上で、今後の成長発達を見据えたケアの方向性を示すことができる。
行動指標
  • 子どもを取り巻く地域の状況を知る
  • 最近の子どもの特徴を知る
  • 学校や地域の支援機関と情報交換を行う
  • 他職種から異なる視点での新しい情報・新しい理解を得る
  • 家族と向き合い家族の本音を聞く
  • 子どもなりのスタッフの使い分けを観察する
  • 生育歴を掘り下げて考える
  • 子どもの回復のプロセスを理解する
  • 子どもが問題行動に至るプロセスを把握する
  • 問題行動の背景にある発達上の課題を理解する
  • 子どもの言動の背景にある気持ちを理解する
  • 子どもの自尊心・自己肯定感をアセスメントする
  • ケアの展開や治療の継続を困難にしている要因を考える
  • 問題行動に関連する複雑な要因を紐解き根底にある課題を理解する
  • 家族システムのあり方をアセスメントする
  • 家族関係を紐解いて家族の強みを探る
  • 家族が抱く脅威・不安を理解する
  • 家族と病院側の認識のズレを知る
  • 家庭の養育力を考える
  • 子どもの将来を見越して今の治療の意味を明確にする
  • 子どもの愛着と退行を理解する
  • 今後必要なケアを予測する
  • 子ども集団の変化、および変化を起こした要因を理解する
  • 緊急性の判断をできるだけ早くに行う

2.援助の基盤づくり

児童・思春期精神科病棟に入院してくる子どもの中には、親との愛着形成に問題がある場合も少なくありません。子どもとの愛着を育むことも大切ですが、一方では看護師として適切な距離を保つ必要もあります。子どもとの関係で生じた抵抗を上手に扱いながら、関係性を構築していくことが求められます。問題の大きさに圧倒されそうな場合でも、子どもと家族が力を出せるよう環境を整えていきましょう。そして、彼らの力を信じて待つのです。困難に負けず、子どもと家族の力を信じて、笑顔で明るい病棟の雰囲気を作り出しましょう。

到達目標 治療的関係の中で生じた抵抗を理解した上で、子どもと家族が主体的に行動変容できるように意図的に関わることができる。
行動指標
  • 子どもとの信頼関係を早期に築いて治療への動機づけとする
  • 子どもの回復の過程に応じて生じた子どもの感情に寄り添う
  • 問題行動の背景にある子どもの思いを考えながら接する
  • 子ども・家族と適切な距離を保つ
  • 子どもとの関係で生じた転移に早期に気づき対処する
  • 愛着形成に問題がある子どもに対して、ほどよい退行を用いながら愛着関係を再構築することができる
  • 疾患や治療の知識を親に伝え、理解を促す
  • 子どもの気持ちを親に代弁する
  • これまでのやり方を変えることが難しい家族の気持ちを理解する
  • 親が看護師に向ける転移感情を理解する
  • 家族と子どもがもつ潜在的な力を信じる
  • 子どもや家族から嫌われることをいとわずに必要なケアを行う
  • 患者看護師の二者関係から第三者を含めた複数での関係性を発展的に作る
  • 笑顔で明るい病棟の雰囲気を作り出す

3.援助行動

問題の解決や100%満足のいくものでなくても、子どもとその家族が自分たちなりに納得して治療を受けられるように支援しましょう。これは、単なるあきらめではなく、最善を尽くすということなのです。子どもとその家族が、問題を自分のものとして引き受け、対応できるようにしていくことが大切です。看護師は、伴走者です。

到達目標 子どもと家族が自らの課題に対する理解を深め、納得のいく治療を受けられるよう支援するとともに、困難な局面において臨機応変に対応することができる。また、集団を対象とした治療プログラムを主導することができる。
行動指標
  • 子どもが自分の葛藤に直面するのを助ける
  • 子どもが自己決定できるように治療の意味と今後の見通しを説明する
  • 退院先の決定について丁寧に子どもに説明する
  • 子どもの成長に合わせて子どもが自己決定できるよう支援する
  • 思春期になったら子ども主体の治療へ移行を行う
  • 子どもが家族から自立する力をつける
  • 危機状態に陥った時の対応を子どもと一緒に考える
  • 効果のあったケアを他の課題に応用する
  • 結果ではなく成長の過程を褒める
  • 子どもの本音を上手に聞き出す
  • 子どもの将来を考えて支援する
  • 子どもが失敗体験を受け入れ乗り越えられるよう支援する
  • 治療効果が得られなかったなど状態の悪化を打開するための看護ケアを提案する
  • 子どもが自分の抱える困難を言語化できるように支援する
  • 子どもの行動に意味づけをして伝える
  • 病気の受け入れについての子どもの葛藤に対する不安を緩和させる
  • 家庭の養育力を踏まえた退院後の生活に対する具体的な援助を実施する
  • 怒りや興奮をコントロールするためのエビデンスに基づくプログラムを実施する
  • 行動拡大に伴う看護ケアを主導する
  • 暴力、問題行動を繰り返す子どもへの対応を考える
  • 子どもが主体となって楽しめる集団活動を計画・実施・評価する
  • 集団活動を通して子どもの発達を促す
  • 特定の子どもへの看護師の対応が他の子どもに与える影響を踏まえてケアを決める
  • 目的に照らして集団活動の評価を行う
  • 子どもの療育環境におけるキーパーソンに働きかける
  • 家族員それぞれの役割を伝え、家族が子どもをケアできる体制を整える
  • 親の子育ての不安に寄り添い家族が前向きに子どもに関われるよう支援する
  • 親自身のつらさや傷つきを理解し、ねぎらう
  • 家族が納得のいく退院となるようサポートする

4.協働

院内に留まることなく、地域の関係機関とも協働していきましょう。そして、看護師としての自分の意見をしっかりと述べ、できることをやってみせましょう。地域を含む他職種チームが上手く機能するように調整していくことが求められます。

到達目標 関係機関および他職種の機能と役割を理解し、積極的に働きかけて協働することで、困難に対処し、治療を前進させることができる。
行動指標
  • 家族・子どもの関わりから生じた負の感情に対してチームで対処する
  • 多職種でお互いの専門知識と援助技術を共有する
  • 看護の限界を知りつつも看護でできることは首尾よくやる
  • 他の職種の価値観・受けてきた教育・役割の違いを理解する
  • 看護の専門性と仕事内容を他職種に理解してもらった上で役割を担う
  • 問題が発生した場合はタイムリーに話し合い対処法を決定する
  • 毎日病棟での十分な意見交換を行い、チーム全体の決定として最適な看護を見出す
  • 子ども・家族と他の職種の橋渡しをする
  • 看護師の見立てを医師に伝える
  • 主治医が対応すべき事柄を明確にする
  • 看護の方針を医師に提案し医師の理解を得た上で実施する
  • 医師と家族の対話を促進する
  • 他の職種や関係機関とのカンファレンスで意見交換する
  • 会議の目的に合致した人を選定して招集する
  • ケースワーカーと連携して退院後の地域での支援機関を考える
  • 地域の学校や施設の職員など地域の支援機関の困難を聞き対応方法を伝える
  • 病棟での実践を地域の学校でも活用できるよう教員と連携する
  • 退院後の地域の福祉・医療・教育への移行がスムーズに行くように入院中から繋がりをつくる
  • ケアの中心を必要時には他の職種や他機関にスムーズに移行させる
  • 多職種での情報共有にカンファレンスシートを活用する
  • 他の診療科と連携する
  • 他の看護師の課題に対するヒントを提供する
  • 暴力場面においてスタッフが連携して対応できるようリーダーシップを発揮する

5.専門能力の開発

精神療法や家族療法などの理論を学び、根拠のある看護実践を行いましょう。また、社会の様々な出来事にも関心を向けてください。特に、院外の研修や学会に参加し、他施設や他職種の人と交流することで、視野を広めることも大切です。その中で、看護観が育成され、看護師としての自己の課題に向き合えるようになっていきます。

到達目標 エビデンスに基づく看護実践を行うために、広い視野で自己研鑽を行うことができる。また、他の看護師と学びを共有することができる。
行動指標
  • 子どもを取り巻く社会的課題を理解する
  • 精神保健福祉における社会的課題を理解する
  • 疾患に合わせた対応方法・治療プログラムを知る
  • 外部研修に参加し新しい知識を得る
  • 他施設との交流を通して学ぶ
  • 看護以外の専門領域について専門書や研修を利用して学ぶ
  • 病棟のニーズを見極め勉強会の企画運営に主体的に関わる
  • 他のスタッフにアドバイスする
  • 後輩の育成に関与する
  • 仕事に役立つ資格の取得を考える
  • 自分の発達過程における課題を整理する
  • グループに参加し自分の感情や傾向に気づく
  • 看護師として自己の課題に向き合う