児童・思春期精神科看護において、病院だけで自己完結的に治療を行うことはあり得ず、家庭・学校・地域との連携・調整は、切り離すことのできない特徴的なものです。子どもの外泊や就学への支援をする時に、家族や学校の受け入れが良くないことは少なくありません。また、保健所や児童相談所などの行政機関や、自治会などの地域住民、民生委員といった地域の社会資源が上手く活用されないことも多々あります。家族や学校から理解と協力が得られず、看護師は子どもと家庭・学校・地域との狭間で困難を感じることが多いものです。しかし、その一方で、家族や地域の関係機関も、それぞれが個別に努力はしているものの、お互いがどのような機能を担っているのか、どのように連携していけば良いのかが分からず、困難を感じています。各関係機関で情報の交換を行い、子どもの理解を深め、共通の目的・具体的な目標を共有する必要があります。子どもに対する共通理解があってこそ、各関係機関での役割が明確となり、効果的に子どもに対応することができるようになります。ここでは、連携する際の看護師の役割と連携時の注意点をまとめました。
家庭・学校・地域との連携における看護師の役割
1. 子どもの権利を擁護する
子どもの問題行動は、教育の指導力不足や家庭のしつけ、本人の性格によるものではありません。看護師は、そうした偏見に苦しむ教育現場や家庭に、正しい医療知識に基づいた子どもの状態と対応方法を伝えることで、子どもの権利を擁護する役割があります。家庭や学校などの関係機関に情報提供された診断名や治療方針が曖昧な場合は、子どもに関わる関係者それぞれの価値観や憶測によって、疾患や子どもに対する理解に差が生じ、関係者間の認識のずれにつながってしまいます。
2. 関係機関の中で役割意識をもつ
子どもの問題は、本人だけの問題というよりは、周りの対応の問題、環境(家庭や学校など)の問題でもあります。子どもの地域生活を視野にいれた家庭・学校・地域の連携の中で、自分は看護師として、どのような役割を担っているのか、どのような貢献ができるのか、を常に意識する必要があります。そのためには、各機関のできることできないこと、医療機関としてまた看護師としてできることできないことを理解する必要があります。
3. 子どもの気持ちを代弁する
家庭・学校・地域で子どもと関わる人たちに対して、看護師は子どもの思いや希望といった「いま」の気持ちを報告する代弁者になる場合もあります。子どもは、発達段階や病状によって、自分の思いを言語化することが困難なことが少なくありません。そのため、日々の関わりの中で、子どもの思いを理解することが必要です。看護師は、退院後の生活に向け、直接関わる関係者に対し、日常生活の状況や個々の子どもに応じた対処方法を伝える役割があります。
連携の際に注意すべきこと
「必要な情報共有ができなかったこと」と「守秘が守られなかったこと」のどちらも有効な支援につながりません。子どもの情報の伝達に関する問題は、信頼関係の形成がないことが背景にあります。連携相手は協力仲間であることを意識することが大切です。秘密にしてほしいという情報の中に、看護師が他の支援者と共有した方がよいと思われる内容があった場合、「誰に秘密にしたいのか?」「どういう内容であっても秘密にしたいのか?」「秘密にしないとどういうことが起こると思っているのか?」を子どもに聞いてみることも有用です。
情報を共有していくために、各機関はお互いの専門知識をどこまで理解しているのかを常に確認しあう姿勢が重要です。教育関係者が使う用語で分からないことがあれば遠慮なく聞いて理解に努める、医療用語を分かりやすい言葉に置き換えて説明するなどの配慮が必要です。