1.目を配るべき子どもの特徴
集団精神療法で、できれば最初はメンバーとして避けた方がよい子どもがいます。そのような子ども達は、病棟全体の集団に医療者が対応に苦慮するような影響をもたらすでしょう。行為障害、薬物乱用の子どもは、非行のない子どもに影響を及ぼします。また極端な退行状態の子ども、「自己愛的」と分類される傾向の目立つ子どもは、集団を乱しやすい傾向があります。注意欠陥多動性障害(ADHD)などの衝動統制の未熟な子どもも、疎外され孤立しやすくなります。このような子どもは、入院当初から注意して見ていき、集団内での行動を観察し、医療者との関係性を築くことを目的に、個別の関わりに重点をおくように計画を立てる必要があります。また、集団の場では、そばに個別で対応できる大人がいることが必要となります。
高機能広汎性発達障害の子どもも、集団では注意を要します。彼らは、自己の興味から離れられず、他者の興味に興味を示すことが困難で、同年代の集団から疎外され続けた経験を持っています。このような場合、個別の関わりの中でだめな自己対象とほどよい自己対象を統合させていけるような関わりを行い、同時に集団療法への参加を促し、仲間がいる、仲間に助けられるという経験を一つ一つ積み重ねていくことが必要です。
2.集団から引き離すポイント
上記のような子どもたちが、興奮して大声を出したり、暴力や暴言の行動化を起こした際には、クールダウンの意味もあり、集団から引き離します。クールダウンした後に、その時の気持ちを言語で表出できる時間を取ることが必要です。さらに、興奮したり行動化せずに行動を自分でコントロールできるように、イライラや悲しみ、怒りの感情が沸いた時の別の行動や活動を普段から一緒に考えることが看護師の役割でもあります。
3.子どもの患者集団へのスタッフの対応の留意点
患者である子どもだけを見るのではなく、病棟全体の人間関係、特にスタッフ相互の力動的な関係を考慮することが重要です。特に思春期や青年期の患者は、第ニの分離固体化の時期であり、外界の他者に内的対象を投影する投影同一化という防衛機制を使い、葛藤を克服していきますが、これらは、境界性パーソナリティ障害を抱える人の特徴です。つまり、入院中の子どもの集団が、ほぼ全員境界性パーソナリティ障害の人の行動を呈すると考えて良いでしょう。そうなると、患者の理想化や価値切り下げが医療者の自己評価を不安定にし、さまざまな逆転移の温床となります。極端な場合には、児童・思春期病棟の治療スタッフ全員が境界例的心性に染まってしまうことも十分にあり得ます。これらを考えた際、スタッフは、自分自身の感情に気づくこと、それが患者の投影同一化によるものではないかと考えること、スタッフが自分たちの感情を表出し共有する機会を意図的にもつこと、できれば外部のコンサルタントによる定期的なスーパービジョンをもつことが必要不可欠となるでしょう。