はじめに

ひきこもりとは、一般的には社会参加をしていない人のことをいいます。厚生労働科学研究班が作成した「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」1)は、ひきこもりを「さまざまな要因の結果として社会参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である」と定義しています。
ひきこもりの背景は、雇用の流動化や不況といった日本経済の変化、ひとり親家庭や過保護・過干渉などの家庭環境、本人の精神的健康上の問題、世間体による孤立を生じやすい伝統的な価値規範、少子高齢化や単身世帯の増加によるコミュニティ機能の低下など多様で複合的です。ひきこもり状態にある人のいる家庭は全国に26万世帯にのぼると推定されており2)、ひきこもりの長期化、家族と本人の高齢化が問題となっています。
現在では、ひきこもりは社会問題として広く認知され、地域で支援の中核をになう「ひきこもり地域支援センター」が全国の都道府県及び政令指定都市に設置されています。ひきこもり支援は、ひきこもり状態にある本人が当初から相談に訪れることはまれであるため、多くは家族支援から開始されます。家族を支援していく中で、ひきこもり状態にある本人への相談が開始され、居場所等の中間的・過渡的な社会参加の場への通所を経て、就労支援へと進んでいきます。
しかしながら、ひきこもり状態にある本人に会えずに、家族支援のみが漫然と長期化してしまうことも少なくありません。相談支援に訪れるのを待つのではなく、ひきこもり状態にある人の家庭や支援の場に足を運ぶ訪問支援の有効性が指摘されていますが、マンパワーや支援者のスキルの問題等から普及が進んでいないのが現状です。
この冊子は、ひきこもり状態にある本人および家族への訪問支援について、熟練支援者のノウハウを紹介しています。訪問支援の実践知を明らかにするために、18名の熟練支援者たちが効果的な訪問支援についてのインタビュー調査に協力してくれました。熟練支援者たちの背景は、ひきこもり地域支援センターの相談員、保健センターの保健師、若者支援をしている民間団体の理事、精神科診療所の心理士、精神科病院のソーシャルワーカー、訪問看護ステーションの看護師、社会福祉協議会の職員、親の会の方、と非常に多様でした。

  1.  齊藤万比古:ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン. 厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(主任研究者 齊藤万比古)」, 2010. http://www.ncgmkohnodai.go.jp/pdf/jidouseishin/22ncgm_hikikomori.pdf(平成27年2月5日)
  2.  Koyama A, Miyake Y, Kawakami N, et al.: Lifetime Prevalence, Psychiatric Comorbidity and Demographic Correlates of “Hikikomori” in a Community Population in Japan. Psychiatry Research 176: 69-74, 2010.