熟練支援者が行う訪問支援のプロセスを下図に示しています。熟練支援者は、「ひきこもり本人の社会参加への動機づけ」と「社会とのつながり」の二つの側面に注目して働きかけることで、自分なりの社会参加のあり方を見出すことを支援していました。
支援機関につながるまで、ひきこもり状態にある本人は、「何もできず、生きる価値がないという絶望」を抱き、社会の中で完全に「孤立」していました。家族等から相談を受けた支援者は、ひきこもりの背景にある課題の見立てや家族の力量を評価し、ゴールまでの見通しを立てた上で、危機介入や家族支援などを行い、本人に働きかけるための環境を整えていました。危機介入や家族支援によって、ひきこもり本人は「家族」との関係性を再構築することができるようになっていきます。こうした間接的な支援は、ひきこもっている自分に対して「このままではいけないという葛藤」を喚起させるというねらいもありました。
支援者は、訪問支援の開始を家族から提案してもらったり、会えなくても定期的に訪問したりするなど、会いたいというサインを送ることで、本人との直接の関わりを持とうとしていました。そして、本人との接点を継続的なものにする中で、本人とつながる「特定の支援者」として、生きづらさを受け止め安心できる場を訪問の中で作っていき、本人が「自分にもできることがあるかもしれないという希望」をもてるようになり、自分の希望や困りことを支援者に表現できるように働きかけていました。
支援者は、「支援チーム」やひきこもりを経験した「仲間」を巻き込みながら、本人の日々の生活上の困りごとや希望に対応することで、少しずつ活動範囲・関係性を拡大させていました。また、社会とのつながりを拡大していく際には、「人の役に立つ喜び」を感じることができるように工夫していました。社会の中で役割をもち、自分なりの「社会参加」のあり方を見出すことができた時は、訪問支援は終了し、社会とのつながりが維持されるように見守っていました。
次章からは、このプロセスに沿って、具体的な支援をご紹介します。